とある内科医の読書記録

おすすめの本をネタバレなしで紹介していきます。たまに医学のことも。

『第三のチンパンジー 完全版』ジャレド・ダイアモンド

10冊目。

1992年に原著、1993年に日本語訳版(人間はどこまでチンパンジーか?――人類進化の栄光と翳り)が出版されていて、そちらを改題・修正したものです。

 

宇宙からきた生物学者は、ヒトを「第三のチンパンジー」に分類するだろう。なぜなら、ヒトとチンパンジーの遺伝的距離は驚くほど小さく、非常に近い関係にある鳥同士よりもずっと近い関係性だからだ。だが、わずか数万年の間に、ヒトは人間へと進化した。何が人間とチンパンジーとを分けたのか? ダイアモンド博士の原点とも言える名著に、原書ペーパーバック版のために書き下ろされた補遺2点も収録した完全版。王立協会科学図書賞受賞作。

 

 

およそ1万年前から発展の速度を上げた人間は、農業を覚え、人口を増やし、文明を栄えさせた。人間の技術は他の星に信号や人工衛星を送るまでに発展した一方で、一夜にして地球を吹き飛ばす兵器をも開発した。なぜ人間は他民族の大量殺戮を企て、たびたび実行に移すのか。なぜ人間は動物以上に環境を破壊してしまうのか。資源涸渇から滅亡した文明から、何を学ぶべきか。人類の未来への警鐘と希望を記したダイアモンド博士の記念すべき第一作の完全版。

「私たちの過去の記録と現在の窮地を見て絶望した読者の皆さんが、希望の兆しは見えるのであり、私たちが過去から学ぶ道はあるのだ、というメッセージを見落とさないでいて下さることを願ってやみません」(本書より)

 

人類の起源、歴史、奇妙な特性(良い面も悪い面も)等について、なぜそうなったのか、幅広い知見に基づいて説明されています。そして、未来への警鐘も。

 

さすがに内容は古くなっている部分がありますが、訳註で最新の報告についても補足されています。

例えば、「クロマニョン人ネアンデルタール人の間で混血はほとんど起こらず、現代人のDNAにネアンデルタール人の遺伝情報は入っていない」と述べてますが、この予測は外れていました。

今年のノーベル賞を受賞した研究ですね。以下参照。

 

ペーボ博士は絶滅した人類の遺伝情報を解析する技術を確立し、4万年前のネアンデルタール人の骨に残っていた遺伝情報を詳しく調べて、現代の人類であるホモ・サピエンスと比較しました。

 

その結果、ホモ・サピエンスネアンデルタール人の遺伝情報の一部を受け継いでいることを突き止め、ホモ・サピエンスネアンデルタール人とで種が交わっていた可能性を明らかにしました。

www3.nhk.or.jp

 

また、個人で書いているので、意見の偏りはあるかなと思います。人間の特性はなかなか実験できないので仕方がないですか、エビデンス弱くないかーというところもあります。

 

というわけで内容全てを鵜呑みにはできませんが、書かれている内容は興味深いものが多く、知的好奇心が刺激されます。

特に面白いなと感じたのは以下の話です。

 

・現在地球に存在する多種多様な人種の起源

 自然淘汰(その方が合理的だった)よりも性淘汰の影響が大きいのではないか

 

・農業のもたらした負の側面

 栄養失調、飢饉、伝染病、階級差別

 

・征服者となった(文明の進化が早かった)理由

 遺伝的差異ではなく、環境に恵まれていたからではないか

 

・人類の奇妙な特性いろいろ

例えば…夫婦は内面的な要素、肉体的な要素ともに相関が見られる(=似ている)。これは、大きくなるまでに出会った異性(親や兄弟、幼馴染)と似ている人を好きになるから。でもその人たち本人は対象とならない。

 

興味があったら是非読んでみてください。

自分の興味のあるところ以外は流し読み、って感じでもいいかなと思います。

下巻の第16章、19章は是非読んでほしいです。

人類の負の側面、互いに大量に殺し合う性質と環境を破壊する性質について書かれています。

今まで行ってきたジェノサイド、環境破壊の歴史を見ると、本当に人間は愚かな生物だなと思います。

頭のおかしい人、短慮な民族だから間違った行為を行うのではなく、どの人種でも潜在的に持っている特性なのだと述べられています。認めたくありませんが、歴史から考えると私もそうなのだろうと思います。

 

目を背けたくなりますが、歴史からしっかりと学ばなければいけません。

今まで世界平和とか環境保護という言葉を、なんとなく他人事のように感じていました。どこかで見て見ぬふりをしていたんだと思います。

大袈裟かもしれませんが、これからは人類の明るい未来のため、自分のできることをやっていこうと決意しました。

大切な人のためにも。

 

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『弁護側の証人 』小泉喜美子

9冊目。

皆さんはどうやって読む本を決めていますか?

(私のブログを見て決めている人はいないと思いますが。笑)

 

昔は事前に調べたりせず、図書館で適当に選んで借りて読んでいました。

社会人になってからは時間もないので、事前にネットで調べてから決めることがほとんどです。なんらかの文学賞に選ばれた作品を読むことが多いですね。事前に口コミも調べず、ふらっと立ち寄った本屋で表紙やあらすじだけを見て買うこともありますが、その場合はたいてい好きな作家の作品です。

 

この前珍しく何も調べずに、書店で全く知らない作家の本を購入しました。平積みにされていて、帯とPOPが気になったのです。『衝撃!』『大どんでん返し』『必ず騙される』みたいな。

 

結果から言うと、その帯とPOPに「騙された」って感じでした……。

情緒がない、ただただ突拍子のない展開が続くだけで、読後感も悪かったです。

 

帯やPOPで期待しすぎるのは良くないですね、という話です。

前振りが長くなりました。

 

今回紹介するのは、小泉喜美子さんの『弁護側の証人 』という作品です。

 

ヌードダンサーのミミイ・ローイこと漣子(なみこ)は八島財閥の御曹司・杉彦と恋に落ち、玉の輿に乗った。しかし幸福な新婚生活は長くは続かなかった。義父である当主・龍之助が何者かに殺害されたのだ。真犯人は誰なのか? 弁護側が召喚した証人をめぐって、生死を賭けた法廷での闘いが始まる。「弁護側の証人」とは果たして何者なのか? 日本ミステリー史に燦然と輝く、伝説の名作がいま甦る。

 

 

1963年、今から約60年前の作品です。

昔の小説って読みにくいものが多いですが、『弁護側の証人』は比較的読みやすいですよ。古い表現も、味があって良いなと感じます。

 

構成が巧いですね。

キャラクターも立っていて、好きになれる登場人物が出てくると思いますよ。

 

なんで冒頭の話をしたかというと、この本の帯を書いているのが錚々たる作家陣で、皆さんべた褒めしてるんですよね。

好きな小説なんですが、ちょっと帯でハードルが上がりすぎている気がします。

これを読んで育った作家(それこそ帯の文句を書いている作家)が書いた小説で、もっと面白くて洗練されているものがたくさんあります。

先駆者をどう評価するかっていうのは難しいですよね。

帯を見ないで、そこまで期待せず読んでみるのが良いのではないかと思います。

 

色々書きましたが、60年前の小説を今読んでも面白いというだけですごいですし、ミステリーの古典としての歴史的価値もあるんじゃないでしょうか。

時間があれば是非。

 

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『ある女』アニー・エルノー

8冊目。

2022年ノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーさんの作品です。

前回読んだ『場所』は娘と父親の物語でしたが、こちらは娘と母親の物語です。

dbook.hatenablog.com

 

図書館で借りて読みましたが、手元に置いておきたい作品です。プレミア本になっていて、今購入するのは難しいようです。また再販してほしいです。

(2022年12月1日追記 普通にAmazonで売ってました)

 

母が死んだ。

十二歳で学校を辞めて工場で働き、父と結婚した後は、共に店を切り盛りしていた母の人生。自分の子供に少しでも良い教育をと子どもの数は一人にし、教育にお金をかけてくれた母。そんな母の誇りは、一人娘が教員免許をとり、知識階級の仲間入りを果たしたことだった。やがて忍び寄る病魔の影。母はアルツハイマー病になっていた。母を引き取り介護に明け暮れるが、自分一人では母の面倒を見切れず、養老院に預けることに――。

フランス人女性として初めてノーベル文学賞を受賞した著者が、自らの母親の人生と、母が娘に託したものを綴る、自伝的小説。

 

自分に持っていないものに対して過度に卑屈になる・拒絶する父親と比べると、母親の方が柔軟で向上心があり、そんな母親に憧れを抱いて幼少期を過ごします。ただ、成長とともに「教養を身につけたいと思っていることと、教養があるということは、まったく異なる二つのことなのだと痛感」します。母親の育ってきた環境を考えると仕方がないんですよね……。娘の気持ちも、時に矛盾しているように思える母親の気持ちもすごく分かるから切ないです。

離れてから(あるいはちょっと大人になったからか)気づく愛情というのも、身に覚えがあり共感できます。

 

大変な時代を生き抜いた逞しい女性。それでも老いがきて、認知症になります。以降の話は書き進めるのが辛いと記されてますが、こちらも読み進めるのが辛くなります。

 

なんでアニー・エルノーさんの作品はこんなに心に響くんでしょう。

今の自分の境遇もあるのかもしれないですね。

 

自分の家族だけではなく、仕事についても改めて考えさせられました。認知症の方や老衰で亡くなる方を見る機会が多い職種なので。

今の自分には、確たる覚悟も自信もないです。とにかく誠実に頑張るしかないんだろうな。辛くなったら逃げるけども。

 

今年の年末は、実家に帰って親孝行させてもらおう。

 

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新内科専門医試験の勉強法

今日は番外編です。

 

新内科専門医制度が始まり、今年2回目となる試験がありました。

私は2期生なので今年受験しました。全科目平均以上、全体で80%以上の得点率でした。

試験前には勉強法をTwitterやブログでよく調べていたので、後輩の参考になればと思いこちらで書いてみます。

 

まずはおすすめの教材について。

 

おすすめ度 ★★★

イヤーノート 2023 内科・外科編

学生時代に使っていた方も多いと思いますが、古いやつではなく最新版を買うのをおすすめします。

毎年3月に発売されます。購入してから本格的に試験勉強を開始する方針で間に合うと思います。

(2021年は7月、2022年は5月と試験日がけっこう違っていたので、内科学会のホームページで早めに試験日を確認しておいた方が良いです。)

最新版がおすすめな理由は、以下の2つです。

 

① 公式の過去問題集が古い

医師国家試験の過去問と異なり、内科学会の公式過去問題集は毎年刊行されているわけではありません。その他の内科専門医向けの問題集も同様です。

毎年更新されているガイドラインもありますし、問題によっては出題時と答えが変わっている可能性があります。

学会によっては最新のガイドラインが無料で閲覧できないものもあります。

最新版のyear noteがあると大きな時間の節約になります。



② 内科系専門医試験 Quick Checkも更新されている

試験対策として、付録のQuick Checkは絶対やった方が良いです。周りの人もほぼやっていました。

相当な暇人と思われるかもしれませんが、数年分のQuick Checkの内容と問題数を比べてみました。

第1回目の新内科専門医試験で出題されてネット上で難問と言われていた問題が、翌年のQuick Checkには新たに掲載されていました。前年の内科専門医試験の内容を踏まえて毎年更新されているものと思われます。

Quick Checkの問題数、ページ数に関しては毎年増えているわけではなく、むしろ徐々に減っています。重要ではないものが削られて洗練されているのでしょう。

 

値段は高いですが、試験後は使わないというのであればネットオークション等で売れば良いと思います。発売から数ヶ月であれば、かなり高く売られていますよ。

 

おすすめ度 ★★★

日本内科学会認定内科医試験・総合内科専門医試験/過去問題集 第2集

これも皆やっていると思います。

第1集と異なり、解説がついています。そんなに充実した解説ではないですが、あるとないでは大違いです。

最新版でも2018年度のものなので、year noteなどで最新の情報を確認しましょう。

https://www.naika.or.jp/journal/shoseki/kakomon/

 

おすすめ度 ★★☆

日本内科学会認定内科医試験・総合内科専門医試験/過去問題集 第1集 

こちらには解説がありません。臨床問題の診断名も書いていません。

これを5,000円で売っているのはちょっとどうかと思いますね。

内科学会の会員であれば、さらに古い過去問なら無料で見られるので、それでも良いかもしれません。

 

おすすめ度 ★★☆

生涯教育のためのセルフトレーニング問題と解説(第4集)

あまりやっている人はいなかったかもしれません。

過去問と異なり、問題の解説がかなり充実しています。1問の解説に1ページ使われています。

こちらも最新版で2018年発行なので、適宜最新の情報を確認しましょう。

時間があればという感じです。

 

おすすめ度 ★☆☆

CareNeTV

ビデオ講座です。試しに入会してみました。

役立つ講義もあるのでしょうが、内科専門医試験対策としては微妙だと思います。

医師国家試験対策のMEC、TECOM、Medu4のようなクオリティは期待しない方が良いです。

内科専門医試験対策とされている動画は以下のものです。

 

長門流 内科専門医試験出るズバッ!LIVE

・内科専門医試験 バーチャル模試

→ 試験対策になるとは思いますが、ただの問題の羅列であり、過去問やQuick Checkをやっている人は不要だと思います。あと更新ペースが遅いので、第1回から最終回まで数ヶ月かかります。月額費用がかかるので、入会するタイミングを考えた方が良いです。

 

・THE内科専門医問題集“見るラヂオ”

→ THE内科専門医問題集自体がそこまで「試験対策」ということに重点を置いていないようです。まあ二人の仲は良いんだろうなと思いました。

 

・総合内科専門医試験 オールスターレクチャー

→ 講師陣によってわかりやすさと試験対策への意識に差があります。分かりやすく、かつ過去問等を確認して試験対策について考えているなと思う先生は少ないです。

 

 

実際の勉強法としては……

 

3月に最新版のイヤーノートを購入

→ Quick Checkを覚えるまで繰り返しつつ、内科学会の過去問題集を進めていく

 

というのが一番良いのではないかなと思います。

 

ただ今年の試験後は有志による試験問題の復元が行われていて、探せばかなり精度の高い復元問題が見つかると思います。

早めに勉強を始めたい人は、早めにイヤーノートを購入し、最新問題は復元問題で対応でも良いかもしれません。

 

今までの進級試験や国家試験と違って、落ちてもあまりデメリットは大きくないと思うんですよね(サブスペ専門医を取るのが1年遅れるのと受験料くらい?)。働き方は変わらないですし。

なので、あまり気負わず、無理せずに頑張ってくださいね。

 

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『死都日本』石黒耀

7冊目。

「一番怖い自然災害は?」と聞かれたら、多くの日本人は地震と答えると思います。

私もそうでしたが、この本を読んで変わりました。

最も恐ろしいのは、「破局噴火」であります。

 

以下あらすじです。

各紙誌絶賛の超弩級クライシスノベル!
「精密予測 うなる専門家」――朝日新聞
「学者たちが舌を巻くリアルな描写」――毎日新聞
破局を超えて、日本再生の道を示しているところがいい」――AERA

西暦20XX年、有史以来初めての、しかし地球誕生以降、幾たびも繰り返されてきた“破局噴火”が日本に襲いかかる。噴火は霧島火山帯で始まり、南九州は壊滅、さらに噴煙は国境を越え北半球を覆う。日本は死の都となってしまうのか? 火山学者をも震撼、熱狂させたメフィスト賞宮沢賢治賞奨励賞受賞作。

 

『死都日本』では、日本で破局噴火が起こった未来がとてもリアルに描かれています。

これを読んでいると、もう実際に破局噴火が起こるんじゃないかと思えてきます。防災に対する啓蒙にもなると思います。といっても、警報を楽観視しない、とにかく逃げる、くらいしかできることはないんですよね……。

 

大規模な火山の噴火が地形・地図を作り変えてしまうことは、多くの人が知っていると思います。ただそのような破局噴火が起こるのは、数百年から数千年、あるいは数万年に一度なので、その恐ろしさを忘れてしまうんですよね。自分が生きているうちは大丈夫だろう、と。

自然災害に限らず、日々のニュースを見ていると、「なんでそんな事故が……。」と思うことがたくさんあります。今までの人生では問題がなかったから、企業がやっていることだから、多くの人が参加しているから、など根拠のない自信は持たないようにしましょう。

 

話がずれましたが、ストーリーも面白いですよ。

火山オタクの主人公、黒木伸夫は応援したくなるキャラクターです。必死のサバイバルは手に汗握ります。

 

ちょいちょい出てくる筆者の政治思想が少し冗長かな。気になる方はその部分だけさっと読み飛ばせば良いと思います。

 

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